医療関連感染(Healthcare-Associated Infections, HAI)は、患者の予後を悪化させ、医療費の増大を招く深刻な問題であり、薬剤耐性微生物の拡散も世界的な脅威となっています。このような状況において、手指衛生は、病原体の伝播を抑制し、感染症の発生を低減するための最も基本的かつ効果的な手段として、その重要性が国際的に広く認識されています。世界保健機関(WHO)や米国疾病予防管理センター(CDC)などの主要な感染管理機関は、手指衛生の科学的根拠が明白かつ説得力があることから、特定の患者ケアの前後の手指衛生を強く推奨しています
1。
手指衛生の実践は、医療従事者の手から患者へ、患者から医療従事者へ、あるいは医療従事者から環境へと病原体が伝播する連鎖を効果的に断ち切ります。複数の研究が、手指衛生が致命的な病原体の患者への拡散、抗生物質耐性菌を含む病原体の拡散、そして患者から医療従事者への菌の定着や感染リスクを低減すると明確に示しています
2。例えば、コロナウイルスにおいては、石鹸と流水による手洗い、またはアルコール消毒液によって、手指に付着したウイルス量が0.01%にまで減少することが確認されており、手指衛生が微生物学的に強力な感染伝播抑制効果を持つ直接的な証拠となります 4。この根本的な効果が、医療現場における手指衛生の普遍的な基盤を形成しています。
本報告は、特に在宅での医療提供が増加する訪問診療と、日常的に多くの患者が訪れる外来診療の二つの現場に焦点を当てます。これらの医療現場における手指衛生の意義、具体的な実践方法、および各現場特有の課題とそれに対する解決策について、最新のエビデンスに基づき詳細に検討することを目的とします。
訪問診療は、入院施設と外来の中間的なリスク特性を持つという認識は、その環境的要因から妥当であると考えられます。入院環境は、重症患者や易感染性患者が多く、侵襲的な医療処置が頻繁に行われるため、厳格かつ集中的な感染管理が求められます。例えば、外科的手術や留置デバイスの挿入など、医療関連感染のリスクが高い行為が日常的に行われます
2。
一方、外来診療は、多数の患者が短時間で出入りし、待合室などの共有空間での接触機会が多いため、広範囲への病原体伝播リスクが高い傾向にあります
5。外来通院患者の手指からも、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの病原体が検出されることが報告されており、患者自身が交差感染の感染源となり得ることも示唆されています
8。
訪問診療は、患者の自宅という非医療環境で医療行為が行われるため、病院のような厳格な環境制御(例:専用の手洗い設備、陰圧換気システム)が難しい場合が多いという点で、これらの中間的な位置づけにあります
9。しかし、患者の自宅で侵襲的ケアが行われる可能性もあり、病院と外来の両方のリスク要素を併せ持ちます。この医療現場の特性は、手指衛生の基本原則は普遍的であるものの、その実践方法や重点を置くべき点が、各医療現場の具体的な状況に合わせて調整されるべきであることを示唆しています。
手指は病原体の伝播経路として最も重要であり、医療従事者や介護者の汚染された手指を介して多くの病原体が伝播することが示されています
10。手指衛生は、これらの病原体を物理的または化学的に除去・不活化することで、患者から患者へ、患者から医療従事者へ、あるいは医療従事者から環境への交差感染を効果的に防止します
2。
手指衛生が主要な病原体に対してどれほどの効果を持つかを示す具体的なデータは、その感染予防効果を明確に裏付けます。
表1: 手指衛生による主要病原体(例:コロナウイルス、MRSA)の減少効果
病原体名 |
手指衛生方法 |
効果(減少率/感染率への影響) |
出典 |
コロナウイルス |
石鹸と流水による手洗い |
手指に付着したウイルスが0.01%に減少 |
4 |
コロナウイルス |
アルコール消毒液(40度以上のエタノール) |
手指に付着したウイルスが0.01%に減少 |
4 |
MRSA |
手指衛生の徹底(多角的プログラム) |
院内MRSA感染の減少に寄与 |
11 |
MRSA |
手指衛生の徹底(観察研究、手指衛生キャンペーン導入) |
ICU患者におけるMRSAの鼻腔サーベイランス陽性者への接触予防策と組み合わせ、感染率減少傾向 |
12 |
C. difficile |
手指衛生の徹底(観察研究、手指衛生キャンペーン導入) |
感染症の変化なし、むしろ減少傾向 |
12 |
MRSA |
手指衛生(手浴やウェットティッシュでの拭き取り) |
患者の手指に付着した菌の低減が可能 |
8 |
この表が示すように、手指衛生は特定の病原体に対して明確な減少効果をもたらし、感染率の低減に寄与することがエビデンスによって裏付けられています。
WHOは、医療現場における手指衛生のタイミングを「5つの瞬間」として明確に定義し、その実践を強く推奨しています 2。これらの瞬間は、病原体伝播のリスクを評価し、患者への病原体伝染、患者本人由来の病原体の侵入防止、医療従事者自身と医療エリア(および他の患者)の保護を目的としています。
1. 患者に触れる前: 医療従事者の手に付着している有害な病原体から患者を守るため、検温前、聴診前、体位変換前などに実施します 2。
2. 清潔/無菌操作に入る直前: 患者本人由来のものも含め、有害な病原体が患者の身体に侵入することを防ぐため、留置デバイスの挿入など侵襲的なデバイスを扱う前などに実施します 2。
3. 体液曝露リスクの直後(手袋を外した直後も含む): 患者由来の有害な微生物から、医療従事者自身と医療エリア(と他の患者)を守るため、血液、体液、排泄物、粘膜、損傷した皮膚、創傷被覆材などとの接触後に実施します 2。
4. 患者に触れた後、患者の元を離れる時: 患者由来の有害な微生物から、医療従事者自身と医療エリア(と他の患者)を守るため、患者の体位変換後などに実施します 2。
5. 患者周囲環境に触れた後、その場を離れる時(患者に直接触れていなくても): 患者由来の有害な微生物から、医療従事者自身と医療エリア(と他の患者)を守るため、ベッド柵、点滴スタンド、リモコン、電話など患者周囲の物品に触れた後に実施します 2。
手指衛生には、石鹸と流水による手洗いと、擦式アルコール手指消毒の二つの主要な方法があり、状況に応じた適切な使い分けが重要です。
● 使い分け:
○ 手に目に見える汚れがある場合、またはクロストリディオイデス・ディフィシル(C. difficile)やノロウイルスなど、アルコール抵抗性微生物による感染が疑われる場合は、石鹸と流水による手洗いを行うことが必須です 2。
○ それ以外の臨床状況で、手が目に見えて汚れていない場合は、アルコールを主成分とした速乾性手指消毒剤が推奨されます 3。アルコール手指消毒剤は、一般細菌やウイルスを20秒程度の接触で死滅させるとされ、石鹸と流水による手洗いよりも効果的に病原菌を殺菌し、皮膚への刺激も少ないと報告されています 3。
● 手技:
○ 擦式アルコール手指消毒: 手のひらいっぱいの量(手の大きさに合わせ、20秒程度乾燥しない量)を手に取り、両手の手のひら、手の甲から指の付け根、指の間(側面)、4本の指の背、両手の親指、左右の指先など、手の表面全体に乾燥するまで擦り込みます。特に指先や親指は患者に触れる頻度が高い一方で、手指衛生では忘れられがちな部位であるため、意識して行うことが重要です 2。全体で15秒から30秒程度が目安とされています 2。
○ 石鹸と流水による手洗い: 流水で手を濡らし、十分な量の液体石鹸を取り、手のひら、手の甲から指の付け根、指の間(側面)、4本の指の背、両手の親指、左右の指先を丁寧に擦り洗いします。特に洗い残しを起こしやすい指先や指の間を意識して行うことが重要です 2。少なくとも15秒以上 2、または20秒以上 2 推奨されます。洗い流した後は、使い捨てのペーパータオルで完全に乾燥させ、蛇口を閉める際もペーパータオルを使用し、再汚染を防ぎます 2。固形石鹸ではなく液体石鹸を使用し、継ぎ足し使用は禁止です 2。
手袋の使用や交換は、手指衛生の「代用」にはなりません 2。手袋には一定の割合でピンホールが存在することや、着脱の際に手の表面が汚染される可能性があるため、手袋着用前および外した直後には必ず手指衛生を行う必要があります
2。
手袋は、血液、体液、排泄物、粘膜、非損傷皮膚、汚染された機器などに接触する可能性がある場合に着用します 2。外科的手術など侵襲的な処置においては、滅菌手袋の着用が必須であり、その前には外科的手指消毒を行います
2。
手指衛生の重要性が広く認識されているにもかかわらず、その遵守率は医療現場全体で低い傾向にあることがエビデンスによって示されています
1。この遵守率の低さの主要な障壁の一つとして、頻繁な手指衛生による手荒れが指摘されています 19。手荒れは単なる身体的な不快感に留まらず、医療従事者が手指衛生をためらう行動変容の障壁となり、結果として感染対策の有効性を損なう可能性があります。
手荒れを予防し、手の健康を維持することは、手指衛生の遵守率を実質的に向上させる上で極めて重要です。そのためには、熱いお湯での手洗いを避け
2、石鹸成分を完全に洗い流し、手を強くこすらずに叩くように拭き取り 2、保湿クリームやローションを積極的に活用することが推奨されます
2。皮膚保護成分入りの手指消毒剤の選択も有効であり 10、医療施設で承認されたハンドローションの使用は、手指消毒剤の効果を妨げないため推奨されます
2。手荒れが始まった場合は放置せず、早期に皮膚科受診など適切な対応をとることが求められます 13。手荒れ対策を手指衛生プログラムに積極的に組み込むことで、医療従事者が前向きな気持ちで手指衛生に取り組めるようになり、結果として遵守率の向上と感染リスクの低減に繋がります。
訪問診療は、患者の自宅という病院とは異なる環境で行われるため、感染管理において独自の課題を抱えます。住宅の構造や部屋の状況は様々であり、病棟のような厳格な感染予防策(例:専用の手洗い設備、フットペダル式ゴミ箱、陰圧換気システムなど)を十分に実施することが難しい場合が多いです
9。このような管理された環境ではないという特性は、手指衛生の実践において環境への適応と柔軟性が不可欠であることを意味します。病院の厳格なプロトコルをそのまま適用するのではなく、限られたリソースと多様な環境の中で最大限の効果を発揮するための工夫が求められます。
訪問診療の患者は、高齢者や基礎疾患を持つ易感染性宿主であることが多く、感染症の発症や重症化のリスクが高い傾向にあります 21。また、医師、看護師、薬剤師、介護士など多職種が連携してケアを行うため、感染対策に関する情報共有や認識統一が複雑になることがあります
9。自宅という環境では、訪問カバンや携帯端末の持ち込み、血圧計や体温計の共用など、病院では避けられるべき行為が感染リスクとなる可能性も存在します
16。
訪問診療に特化した手指衛生と感染率の直接的な大規模臨床エビデンスは限られているものの、医療関連感染の多くが医療従事者の手指を介して伝播するという普遍的な原則は訪問診療にも適用されます
10。
急性期病院における研究では、アルコール手指消毒剤へのアクセスの改善や患者・家族への啓発を含む多角的プログラムにより、医療従事者の手指衛生遵守率が介入前21%から12ヶ月後42%へ有意に向上し(p<0.001)、院内MRSA感染の減少に寄与したことが示されています
11。この知見は、環境が異なる訪問診療においても、手指衛生の徹底が感染リスク低減に繋がる可能性を強く示唆しています。また、施設訪問者の手指消毒実施率が低い(4%)という報告もあり 1、訪問診療においても医療従事者だけでなく、患者や家族への手指衛生の啓発と実践促進が重要であることが示唆されます。
訪問診療の現場は、患者宅という多様な環境下で行われるため、医療従事者が迷わずに適切な手指衛生を実施できるよう、具体的な行動指針が極めて重要です。
表2: 在宅訪問時の手指衛生のポイントと携行品
項目 |
具体的な実践方法 |
注意点・補足事項 |
出典 |
携行品 |
液体石鹸、速乾性アルコール手指消毒剤(アルコール濃度60%以上)、使い捨てペーパータオル |
訪問時の必須アイテムとして常に携行する。 |
16 |
訪問時の手洗い |
患者宅に入ったら、可能であれば洗面所を借り、まず液体石鹸と流水で手を洗う。その後、速乾性アルコールで仕上げの手指消毒を行う。 |
清潔な水が利用できない場合は、アルコール手指消毒剤を優先的に使用する。 |
21 |
移動時の手指消毒 |
患者宅を出て、車に乗ったらすぐに速乾性擦式手指消毒剤で手指消毒を行う。 |
ハンドルを握る前など、習慣化することが望ましい。 |
21 |
手技の使い分け |
手に目に見える汚れがない場合は速乾性アルコール消毒剤、目に見える汚れがある場合やアルコール抵抗性微生物(C. difficileなど)が疑われる場合は石鹸と流水で手洗い。 |
アルコール消毒剤がない場合は、消毒剤と流水によるスクラブ法も選択肢となる。 |
10 |
手技の徹底 |
アルコール手指消毒は約3mL手に取り、アルコール分が蒸発するまで、手のひら、手の甲、指の間、指の背、親指、指先など手の表面全体を約15-30秒間擦り込む。石鹸手洗いは30秒以上かけて擦り洗いし、洗い残しが多い指先や指の間を意識する。 |
爪は短く切り、指輪や腕時計は外す。 |
10 |
手袋使用時の手指衛生 |
手袋の使用は手指衛生の代用ではない。手袋着用前と外した直後には必ず手指衛生を行う。 |
手袋にはピンホールがあること、着脱時に手が汚染される可能性があることを認識する。 |
13 |
手荒れ対策 |
手洗い後、ペーパータオルで叩くように水分を拭き取り(強くこすらない)、ハンドクリームやローションを活用する。お湯で手を洗わない。 |
皮膚保護成分の入った手指消毒剤を選ぶことも有効。 |
2 |
訪問診療における環境的制約と患者の易感染性を考慮すると、多職種連携による情報共有と、患者・家族への積極的な教育が、手指衛生遵守率向上と感染リスク低減の鍵となります。
● 課題:
○ 清潔な水と石鹸の確保: 患者宅では、必ずしも適切な手洗い設備(液体石鹸、使い捨てペーパータオル、フットペダル式ゴミ箱など)が常に利用できるとは限りません 10。
○ 衛生材料・個人防護具(PPE)の安定供給: 訪問看護事業所では、衛生材料や防護具の十分な確保が困難な場合があり、これが適切な感染予防、特に手指衛生の徹底の妨げとなることがあります 9。
○ 患者・家族への啓発と理解: 患者や家族の感染予防策への認識の差や理解の得難さがあり、時に「玄関でアルコールを噴霧される」といった過剰な感染対策と捉えられる場合もあります 21。
○ 多職種間の情報共有と連携: 病院とは異なり、多職種が同一施設に所属しないため、感染対策に関する情報や知識、意識の共有が課題となることがあります 9。
○ 医療廃棄物の取り扱い: 訪問先での体液・排泄物付着廃棄物の適切な処理 15 や、針刺し事故のリスク管理 21 に注意が必要です。
○ 環境整備の限界: 訪問カバンや携帯端末を家の中に持ち込まない、血圧計や体温計は患者専用のものを使用するなど、自宅環境での感染管理には限界があります 16。
● 解決策:
○ 携行品の徹底: 液体石鹸や速乾性アルコール手指消毒剤を常に携行し、訪問先で必要に応じて使用することを徹底します 21。
○ 標準予防策の遵守とPPEの適切な使用: 感染の有無にかかわらず標準予防策を遵守し、必要に応じて手袋、マスク、ガウンなどを着用し、適切な着脱と廃棄を行うことの教育を徹底します 9。特に汚染された手袋の取り外し時には細心の注意を払うようトレーニングが必要です 15。
○ 教育の徹底と財政的支援: 標準的感染予防策の教育を継続的に徹底し、衛生材料や防護具の安定的供給に対する行政からの財政的支援や情報提供が必要不可欠です 9。
○ 情報共有体制の整備: 在宅患者、医療従事者、医療機関間での医療情報の共有体制を整備し、ICTツールの活用も推進することで、多職種連携を強化します 9。物理的な環境制御が病院ほど厳格に行えない分、人的な連携と知識伝達が感染対策の有効性を大きく左右するため、チーム全体で情報を共有し、一貫した感染予防行動を実践する体制を構築することが重要です。
○ 患者・家族への丁寧な指導: 患者や家族に対し、手指衛生の重要性や具体的な方法について、過度な不安を与えずに丁寧に指導し、理解と協力を得るためのコミュニケーションを重視します 21。患者や家族を積極的に巻き込んだ教育的アプローチを通じて、自宅という特殊な環境下での感染リスクを総合的に管理する必要があります。
外来診療は、多数の患者が短時間で来院し、待合室や診察室といった共有スペースでの接触機会が非常に多いという特性を持ちます。このため、患者間の距離の確保や、感染経路を考慮した動線の管理が感染対策上重要となります
6。多数の患者が滞留・混雑しないような動線設計、患者間の距離の確保、座席配置の工夫、人数制限などが感染拡大防止のために求められます
6。
医療従事者は、様々な疾患を持つ患者に対して多様な医療行為を行うため、患者ごとに頻繁な手指衛生が求められます 5。外来における高い患者流動性と共有環境は、手指衛生の徹底がなければ、院内だけでなく地域社会への感染拡大リスクを増幅させる可能性があります。これは、外来が潜在的な感染源と感受性宿主が頻繁に交差する場所であるため、単に医療機関内の感染リスクに留まらず、地域社会における感染拡大の「ハブ」となりうることを意味します。したがって、外来における手指衛生の徹底は、個々の患者の安全確保だけでなく、公衆衛生上の観点からも、地域社会への感染拡大を抑制する上で極めて重要な意味を持ちます。
外来患者の手指は交差感染の感染源となることがあり、特に外来通院患者の1割からMRSAが検出されたという研究結果があります 8。これは、医療従事者だけでなく、患者自身の手指衛生の重要性を示唆しています。患者の手指汚染のエビデンスは、医療従事者による手指衛生だけでなく、患者への手指衛生指導が地域全体の感染対策に寄与する大きな機会であることを示唆しています。
手指衛生の徹底が医療関連感染の減少に寄与するというエビデンスは、外来診療にも普遍的に適用されます 1。歴史的にも、イグナーツ・ゼンメルワイスの時代から手指消毒が医療関連伝染病の伝播を減少させる効果が示されており、その有効性は確立されています
25。
外来診療における手指衛生の実践は、WHOの「5つの瞬間」を基本とし、高頻度な患者接触に対応するための徹底が求められます。
● 標準予防策の徹底: 全ての患者に対して標準予防策を遵守し、特に患者との接触前後の手指衛生を確実に行うことが求められます 5。
● 「5つの瞬間」の適用: WHOの「5つの瞬間」を外来診療の状況に合わせて適用し、適切なタイミングでの手指衛生を徹底します 2。
● 1対応ごとの手指消毒: 職員は患者対応ごとに手指消毒を実施することを徹底します 5。手袋を使用する場合も、1対応ごとに手袋を交換し、その都度手指消毒を行う必要があります 5。
● 個人防護具(PPE)の適切な使用: 血液、体液曝露のリスクがある場合や、患者の介助や処置に応じて、手袋、ガウン、マスク、アイシールド・フェイスシールドなどを適切に選択し、着用・着脱します 5。特に脱ぐ際の汚染に注意し、適切なトレーニングを行うことが重要です 5。
● 環境消毒: ドアノブ、手すり、椅子、受付カウンターなどの高頻度接触面を重点的かつ定期的に消毒することで、接触感染のリスクを低減します 5。
● 課題:
○ 患者への手指衛生指導の難しさ: 患者自身の手指衛生の重要性が十分に認識されていない、または実践が難しい場合があることが示唆されています 8。
○ 職員への継続的な教育: 外来受付職員など、患者と直接接触する機会が少ないと思われがちな職種に対しても、手指衛生に関する教育強化が必要であるとされています 28。
○ 待合室の混雑と環境管理: 患者の密集を避け、物理的距離を確保するための動線管理や、換気、消毒の徹底が、限られたスペースで課題となることがあります 6。
○ 手荒れ問題: 頻繁な手指衛生は、医療従事者の手荒れを引き起こし、これが手指衛生遵守率低下の要因となることがあります 20。
● 解決策:
○ 患者への積極的な啓発: 咳エチケットの指導 17、手指消毒の指導 28、来院者への手指衛生の呼びかけ 3 など、患者や来院者への手指衛生の重要性を啓発するポスター掲示や声かけを強化し、患者自身が感染予防に主体的に関わるよう促します。外来通院患者の手指汚染のエビデンスがあるため、患者への手指衛生指導は、単に院内感染リスクを低減するだけでなく、患者が医療機関外の地域社会に戻った後の感染拡大抑制にも貢献しうる重要な機会となります。
○ 職員教育の強化と環境整備: 外来受付職員を含む全職員に対し、飛沫感染対策と手指衛生に関する教育を強化し、マスクや手指消毒薬の設置などの環境整備を行うことで、感染対策への意識と実践レベルを向上させます 28。
○ 手荒れ対策の推進: 保湿剤の使用、手洗いの際の温水回避、叩くように拭き取るなどの手荒れ予防策を推奨し、医療従事者が快適に手指衛生を継続できる環境を整備します 2。
手指衛生は、医療提供の場所や形態にかかわらず、患者と医療従事者の安全を守る上で最も基本的な感染対策の柱です。WHOの「5つの瞬間」に代表される基本原則は、その有効性がエビデンスによって裏付けられており、あらゆる医療現場に普遍的に適用されるべきです。
しかし、訪問診療は患者の自宅という環境的制約や多職種連携の複雑性、外来診療は患者の流動性と共有空間の特性という、それぞれ固有の課題を抱えています。訪問診療は病院のような管理された環境ではないため、手指衛生の実践には環境への適応と柔軟性が不可欠であり、多職種連携による情報共有と患者・家族への積極的な教育が重要となります。一方、外来診療は高い患者流動性と共有環境のため、手指衛生の徹底が院内だけでなく地域社会への感染拡大リスクを抑制する上で極めて重要です。これらの特殊性を理解し、状況に応じた柔軟かつ実践的な手指衛生プロトコルを適用することが、各現場での感染対策を効果的に推進するために不可欠です。
上記の分析に基づき、訪問診療および外来診療における手指衛生のさらなる強化に向け、以下の提言を行います。
● 標準予防策の徹底と継続的な教育: 全ての医療従事者に対し、手指衛生を含む標準予防策に関する継続的かつ実践的な教育を実施します。特に、手技の正確性、適切なタイミング、そして手荒れ対策に焦点を当て、遵守率の向上を図ります。手荒れ対策は、遵守率低下の主要な障壁であるため、その予防とケアに関する指導を強化することが不可欠です。
● 環境整備と物品の安定供給: 訪問診療においては、液体石鹸や速乾性アルコール手指消毒剤などの携行品の徹底と、患者宅での手洗い環境への適応を支援します。外来診療においては、手指消毒剤の設置場所の最適化、高頻度接触面の定期消毒を確実に行います。また、衛生材料や個人防護具(PPE)の安定的な供給体制を確保し、特に訪問診療の現場での不足を解消するための行政的・組織的支援を強化します。
● 患者・家族への積極的な啓発と協働: 訪問診療・外来診療の双方において、患者や家族への手指衛生の重要性、適切な方法に関する情報提供と指導を強化します。ポスター掲示、声かけ、具体的な手技のデモンストレーションなどを通じて、感染対策への理解と協力を促すことで、感染伝播の連鎖を断ち切るための社会全体の意識向上に貢献します。
● 多職種連携と情報共有の強化: 訪問診療においては、医師、看護師、薬剤師、介護士など多職種間での感染対策に関する情報共有と連携を密にし、チーム全体で一貫した感染予防行動を実践する体制を構築します。これにより、個々の医療従事者の負担を軽減し、より包括的な感染管理を実現します。
● エビデンスに基づく実践の推進: 最新のガイドラインや研究成果に基づき、各医療現場の特性に合わせた手指衛生プロトコルを定期的に見直し、改善を図ることで、常に最適な感染対策を維持し、患者と医療従事者の安全を確保します。
1. 感染予防のための手指衛生プログラムガイド, 7月 30, 2025にアクセス、 https://www.goodhandhygiene.jp/wp-content/uploads/APIC_Guide.pdf
2. Clinical Safety: Hand Hygiene for Healthcare Workers | Clean Hands - CDC, 7月 30, 2025にアクセス、 https://www.cdc.gov/clean-hands/hcp/clinical-safety/index.html
3. About Hand Hygiene for Patients in Healthcare Settings | Clean Hands - CDC, 7月 30, 2025にアクセス、 https://www.cdc.gov/clean-hands/about/hand-hygiene-for-healthcare.html
4. 調査報告書 - CAICM 内閣感染症危機管理統括庁, 7月 30, 2025にアクセス、 https://www.caicm.go.jp/citizen/corona/survey/r06_spread_prevention/files/report.pdf
5. 外来における感染対策 - 広島市医師会 臨床検査センター, 7月 30, 2025にアクセス、 http://www.labo.city.hiroshima.med.or.jp/wp-01/wp-content/uploads/2025/01/%E8%AC%9B%E6%BC%94%E4%BC%9A%E8%B3%87%E6%96%99_%E3%80%8C%E5%A4%96%E6%9D%A5%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E6%84%9F%E6%9F%93%E5%AF%BE%E7%AD%96%E3%80%8D.pdf
6. 新型コロナウイルス感染症対策 医療機関向けガイドライン - 日本医師会, 7月 30, 2025にアクセス、 https://www.med.or.jp/doctor/kansen/novel_corona/a_guidolines.pdf
7. 院内感染対策指針のモデルについて - 日本医師会, 7月 30, 2025にアクセス、 https://www.med.or.jp/anzen/manual/kansenshishin.pdf
8. 21592736 研究成果報告書 - KAKEN, 7月 30, 2025にアクセス、 https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-21592736/21592736seika.pdf
9. 「在宅医療と介護における COVID-19 対応の課題と 解決策、提言タスクフォース」 中間報告書, 7月 30, 2025にアクセス、 https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/wp-content/uploads/2020/06/%E5%9C%A8%E5%AE%85%E5%8C%BB%E7%99%82%E3%81%A8%E4%BB%8B%E8%AD%B7%EF%BC%9A%E4%B8%AD%E9%96%93%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9C%80%E7%B5%82%E7%89%88%E6%94%B9.pdf
10. 感染対策の基本は、 手指衛生を適切なタイミングで適切に行う, 7月 30, 2025にアクセス、 https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kenko/hoken/files/21.10.25_1-1.pdf
11. 文献・エビデンス | あなたの手指衛生が患者の命を救う - Medical SARAYA, 7月 30, 2025にアクセス、 https://med.saraya.com/who/bunken.html
12. 手指衛生−アルコール擦式消毒薬の効果について− - 東京医療保健大学, 7月 30, 2025にアクセス、 https://www.thcu.ac.jp/uploads/imgs/20150525104653.pdf
13. 手指衛生, 7月 30, 2025にアクセス、 http://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/4-1_04.pdf
14. CONSENSUS RECOMMENDATIONS - WHO Guidelines on Hand ..., 7月 30, 2025にアクセス、 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK144035/
15. 感染対策指針, 7月 30, 2025にアクセス、 https://www.jarm.or.jp/document/guideline_jarm_infection.pdf
16. 訪問看護ステーション 感染予防対策マニュアル - 一般社団法人 埼玉 ..., 7月 30, 2025にアクセス、 https://sai-houkan.com/web/wp-content/uploads/2025/02/kansenyobou202110-2.pdf
17. 介護現場における 感染対策の手引き - 厚生労働省, 7月 30, 2025にアクセス、 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001149870.pdf
18. 総 論 - 日本環境感染学会, 7月 30, 2025にアクセス、 http://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/3-3-3_pdf_all-4p.pdf
19. 手指衛生の徹底が簡単ではない理由|花王プロフェッショナル ICNet, 7月 30, 2025にアクセス、 https://pro.kao.com/jp/medical-hygiene/handhygiene/004/
20. 染方史郎の細菌楽教室 シーズン4 私の病院の感染対策 医療従事者と手荒れ 地域包括ケアと感 - 丸石製薬, 7月 30, 2025にアクセス、 https://www.maruishi-pharm.co.jp/medical/media/kansen_2025-No.2_202504.pdf
21. はじめる在宅現場で役立つ基礎知識5 感染対策 | ファーマスタイル ..., 7月 30, 2025にアクセス、 https://ph-lab.m3.com/categories/clinical/series/visiting-care/articles/243
22. 在宅ケアにおける新型コロナウイルス感染対策について, 7月 30, 2025にアクセス、 https://jahhc.com/wp-content/themes/jahhc/pdf/2020042802.pdf
23. 新型コロナウイルス感染拡大下における訪問看護ステーションの困難と対応 - 福岡県立大学, 7月 30, 2025にアクセス、 https://fukuoka-pu.repo.nii.ac.jp/record/568/files/%E7%9C%8B%E8%AD%B7%E5%AD%A6%E7%A0%94%E7%A9%B6%E7%B4%80%E8%A6%81%20%E7%AC%AC19%E5%B7%BB%E3%80%8005%20%E5%90%89%E5%B7%9D%20%E4%BB%96.pdf
24. 診療所における効果的な感染対策の好事例の紹介 - 厚生労働省, 7月 30, 2025にアクセス、 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001018631.pdf
25. 医 療 現 場 に お け る 手 指 衛 生 の た め の C D C ガ イ ド ラ イ ン - Medical SARAYA, 7月 30, 2025にアクセス、 https://med.saraya.com/themes/gakujutsu@medical/guideline/pdf/h_hygiene_cdc.pdf
26. 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド, 7月 30, 2025にアクセス、 http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/COVID-19_taioguide3.pdf
27. 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド, 7月 30, 2025にアクセス、 http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/COVID-19_taioguide5.pdf
28. 外来受付職員の医療関連感染予防のための行動と課題, 7月 30, 2025にアクセス、 http://nurs.med.nagoya-cu.ac.jp/kansen.dir/common/dl/w05.pdf
2025/7/30
google geminiでDeep research施行。
これらのデータに基づき、くらしのホームクリニックでは訪問診療や外来時の手指衛生を徹底しています。