TOP > Deep Resechによる検討

高齢者向け骨粗鬆症注射療法の比較検討

訪問診療中心のクリニックにおいて要介護高齢者(身体機能が低下した患者)を多く診療する医師の視点から、現在日本で保険適用されている骨粗鬆症の注射製剤について、その臨床的有用性や長期使用上の考慮点をまとめます。対象薬剤はデノスマブ(RANKL阻害剤)、テリパラチド(PTH製剤)、アバロパラチド(PTHrP類似作用薬)、ロモソズマブ(スクレロスチン阻害剤)に加え、国内で広く用いられるゾレドロン酸(ビスホスフォネート静注)も含めます。それぞれについて(1)高齢者(特に身体機能低下例)における骨折予防効果・死亡率やQOLへの影響、(2)骨折既往の有無による治療効果差、(3)長期生涯使用を見据えた安全性・費用対効果・利便性・持続可能性を比較検討します。

1. 高齢者(虚弱高齢者)における臨床的利益

骨折予防効果(脆弱高齢者への有効性)

デノスマブ(6ヶ月ごと皮下注):大規模臨床試験では椎体骨折リスクを約6070%減少させ、非椎体骨折も有意に減少させました[1][2]。特に75歳以上の高齢者においても若年高齢者と同等の骨折予防効果が示されており[3][2]、要介護高齢者にも有効と考えられます。実際、虚弱高齢者を対象とした検討でもデノスマブは転倒・骨折リスクを有意に低減[4][5]、骨密度の向上効果はビスホスフォネートを上回ると報告されています[6][7]。さらにデノスマブ投与群では筋肉量や筋力の維持改善(握力向上)および歩行速度・TUGTimed Up and Go)改善が観察され、サルコペニアや転倒予防への波及効果も示唆されています[8][9]6ヵ月に1回の皮下注で確実な服薬が担保されるため、介護下の高齢者でもアドヒアランス良好に骨折予防効果を発揮しやすい点も利点です[10][11]

テリパラチド(11回自己注射):重症骨粗鬆症に対する初の骨形成促進薬であり、主に高度な骨量減少や椎体骨折を有する患者に用いられます[12][13]。臨床試験では椎体骨折発生率を約65%減少させ[14]、非椎体骨折も約3540%減少させることが示されています(統計学的有意差は試験規模により異なる)[14]。近年の頭比較試験(VERO試験)では、重症骨粗鬆症女性においてテリパラチド投与群の新規椎体骨折発生率は経口ビスホスフォネート投与群より約5660%低く、臨床骨折全体でも有意にリスク低減しました[15][16]。このように骨折既往のある重症例で特に有効性が高いことから、要介護高齢者で既に骨折を起こしている場合に骨密度と骨強度を速やかに改善し再骨折を防ぐ目的で使用されます[12][13]。ただし投与は原則2年間までであり(長期使用時の骨肉腫リスクに配慮)[17][18]、詳細は後述する持続性の項で議論します。

アバロパラチド(11回自己注射):テリパラチドと同様に骨形成を促すPTH関連薬です。主試験(ACTIVE試験)では椎体骨折リスクを約86%減少(新規椎骨折発生率:プラセボ4.2% vs アバロパラチド0.6%[19])し、非椎体骨折も約43%有意に減少させました[20]。テリパラチドと直接比較した試験では、両薬とも有効でしたがアバロパラチド群の方が股関節など非椎体骨折の発生率が低い傾向が報告されており[21][22]、実臨床の大規模データ解析でもアバロパラチド開始群はテリパラチド群に比べ18ヶ月間で股関節骨折リスクが有意に低減しました(HR0.83p=0.027[23]。さらに全非椎体骨折もアバロパラチド群で有意に少なくHR0.88p=0.003[24]、この差異は年齢や骨折既往のサブグループ間でも一貫して認められています[25]。以上より、アバロパラチドはテリパラチドと同程度かそれ以上の骨折予防効果を示しつつ、一過性高カルシウム血症などの副作用頻度もテリパラチドより低いことから、高齢者にも使いやすい骨形成薬と期待されます(国内では2022年に承認)。ただしこちらも投与期間に制限があります(後述)。

ロモソズマブ(1ヶ月ごと皮下注):骨形成と骨吸収抑制の二重作用を持つ新規治療で、骨密度改善効果が極めて高いことが特徴です[26][27]。海外第III相試験では、高リスク患者(骨折既往例中心)に対し12ヶ月のロモソズマブ投与後、アレンドロネートへ切替える治療群で、一貫してアレンドロネート単独群よりも骨折発生率が低減しました[28]。具体的には24ヶ月時点で新規椎体骨折リスクが48%減少、臨床骨折(症候性骨折全体)が27%減少、非椎体骨折が19%減少しており、いずれも有意差が認められています[28]。特に椎体骨折抑制効果は顕著で、12ヶ月時点ですでに約半減していました[29]。加えて、対照的に股関節骨折リスクも有意に38%低下しており(HR0.62[28]、重症骨粗鬆症に対する初回治療としての有効性が示されています。「骨折リスクの高い高齢者には、従来の第一選択である経口ビスホスフォネートよりロモソズマブが有利である」という指摘もなされています[30]。また、日本人を含むサブ解析でも、ロモソズマブのBMD増加と骨折抑制効果は各人種で一貫して確認されており[31]、高齢男性に対する有効性も臨床試験で裏付けられています[32][33]。さらに興味深い報告として、高齢の骨折患者にロモソズマブを投与すると疼痛やADLが改善したとのデータがあります:例えば高齢男性の大腿骨近位部骨折患者を対象にした後ろ向き研究では、ロモソズマブ(月1回×12ヶ月)投与群で疼痛VASスコアやOswestry障害指数が有意に低下し、骨密度上昇と骨代謝マーカー改善に伴いQOLスコアも有意に向上しました[34][35]。有害事象発生率は対照のアレンドロネート群と差がなく、転倒後の骨折治癒率もロモソズマブ群で有意に高かったことから、脆弱高齢男性の骨折後管理にも有用と示唆されています[36][37]

ゾレドロン酸(年1回点滴静注):海外では標準的な骨粗鬆症治療の一つで、日本でも保険適用があります。1回の点滴投与で患者負担が少なく、大規模試験では椎体骨折リスク約70%減、股関節骨折約40%を示しました(HORIZON-PFT試験)。特筆すべきは、大腿骨近位部骨折後の超高リスク患者を対象とした試験で、ゾレドロン酸投与群はプラセボ群に比べ再骨折抑制に加え全死亡率が28%低下したという所見です[38]。この死亡率改善効果は、骨折後の合併症や生活機能低下を予防したことによると考えられ、骨粗鬆症治療による生命予後改善を示したエビデンスとして重要です(死亡率への影響については後述)。高齢者では点滴時の急性期反応(発熱・倦怠感など)に注意が必要ですが、適切な水分・解熱剤対応で概ね安全に投与可能です。ビスホスフォネート製剤として長期的な骨折予防効果と安全性の蓄積した実績があり、要介護高齢者でも半年〜1年おきに医療者が投与できる点でアドヒアランスは良好です。近年の報告では、ゾレドロン酸とデノスマブのいずれも虚弱高齢患者の骨密度を有意に改善し安全に使用できたとの報告もあり[39]、経口薬内服が困難な症例における有力な選択肢です。

死亡率・QOLADLへの影響

死亡率への影響:骨粗鬆症治療は主目的こそ骨折予防ですが、骨折予防を通じて結果的に生命予後を改善し得ることが示唆されています。脆弱高齢者において骨折(特に股関節や椎体骨折)は死亡リスク増大と直結し[40]、骨折再発を繰り返すと死亡率が累積的に上昇するため[40]骨折予防治療は高齢患者の生存率向上に寄与し得ます[38]。実際、骨粗鬆症患者に抗骨折療法を行うと死亡率が低下することがいくつかの研究で示されています[38][41]。例えば、観察研究ではデノスマブ投与群の全死亡リスクが未治療群より26%低下し(HR=0.74[41]、特に男性高齢者では有意な死亡率低下効果が報告されています[42]。女性では統計上有意に至らなかったものの同様の傾向があり、骨折ハイリスク例ほど治療介入による死亡率改善効果が顕著だったとされています[43]。また前述の通り、骨折後患者へのゾレドロン酸投与ではプラセボ対照で有意な死亡率低下が証明されており、骨粗鬆症薬が心血管系を含む全身状態に良い波及効果を持つ可能性も示唆されています[38]。一方、ロモソズマブは心血管イベントリスク増加の可能性が指摘されており(後述の安全性参照)、治療により死亡率そのものが下がるエビデンスはまだありません。ただし現時点で骨粗鬆症治療薬の適切な使用により少なくとも死亡リスクを悪化させることはなく、むしろ骨折予防を介した生命予後の改善が期待できるというのが概ねの見解です[44]

QOLADLへの影響:脆弱高齢者では骨折予防=QOL維持向上に直結します。脊椎や大腿骨の骨折は慢性的な疼痛、可動性低下、要介護度悪化を招き、生活の質(QOL)と日常生活動作(ADL)を著しく損ないます[45]。したがって前述した各薬剤の骨折抑制効果は間接的にQOLADLの維持に寄与します。さらにいくつかの治療では直接的なQOL改善効果も報告されています。例えばテリパラチドは骨粗鬆症性椎体骨折による腰背部痛を軽減しQOLを改善するとの知見があり、欧州の観察研究(EFOS)では18ヶ月の治療で有意な疼痛スコア低下とQOLスコア上昇が確認されています[46]。同様に、先述のロモソズマブ投与研究では疼痛軽減とADL指標(Oswestry指数)の改善が明確に示されました[34]。デノスマブもまた、要介護高齢者で歩行能力やバランス能力の指標(歩行速度、TUG、四方向ステップテスト)の有意な向上が報告されており[9]、転倒リスクの低減を通じて活動度・自立度を保つ効果が期待されます。これらのエビデンスは、骨粗鬆症注射療法が単に骨密度を上げるだけでなく、高齢者の痛みや運動機能を改善し生活の質を維持するのに寄与し得ることを示しています[36][9]。総じて、適切な骨粗鬆症治療の実施は高齢患者の「健康寿命」を支える重要な柱となります。

2. 骨折既往の有無による治療効果の差異

相対効果は骨折既往の有無で大差ない:各薬剤の骨折予防効果(相対リスク低減率)は、患者の骨折既往の有無にかかわらず概ね一貫して有効とされています[2][47]。例えばデノスマブでは、FREEDOM試験の事後解析にて年齢、既存骨折、既往の骨粗鬆症治療歴の如何にかかわらず椎体骨折抑制効果が維持されていました[2]。具体的には「既往の脆弱性骨折がある群でもない群でも、デノスマブはプラセボに比べ骨折リスクを有意に減らした」との報告であり、年齢高低や他の危険因子による相互作用も認められません[48][47]。同様にパラトルモン製剤(テリパラチド/アバロパラチド)やロモソズマブでも、もともと骨折歴のない一次予防的な集団から骨折歴のある重症集団まで、幅広いリスク層で骨折発生率の低減が確認されています。ロモソズマブについては、一次予防目的で行われたFRAME試験では基礎的な骨折既往がない女性でも1年間で新規椎体骨折リスクを76%減少させ、臨床骨折や非椎体骨折もそれぞれ60%54%と有意に減少しました[49][50]。他方、骨折既往者が多数を占めるARCH試験(対アレンドロネート)でも上述の通り椎体・非椎体とも有意な抑制効果を示しています[28]。これらの結果から、ロモソズマブは骨折既往の有無を問わずハイリスク例に有効と言えます。

絶対効果は高リスク例で大きい:もっとも「骨折予防による絶対リスク減少幅」は、骨折既往があるなどリスクの高い患者ほど大きくなる傾向があります[51]。例えばデノスマブの事後解析では、基礎リスクの低い群(例:若年で骨折歴なし)ではプラセボ群の骨折発生率自体が低いため、有意差が検出されにくい場合がありました[51]。一方で高リスク群(例:高齢かつ骨折歴あり)ではプラセボ群の骨折率が高く、治療介入による絶対的な骨折予防効果が顕著になります[51][52]。実臨床でも、骨折既往の有無や骨密度値に応じて治療の絶対恩恵は変わるため、骨折既往のある患者では治療により恩恵を受ける余地が大きいことを踏まえ、ガイドライン上も骨折二次予防(既往骨折あり症例)ではより強力な治療(例:最初から骨形成薬の使用)を検討する流れになっています。実際、重度骨粗鬆症女性ではテリパラチドが経口ビスホスフォネートより新規骨折抑制に優れることが示されており(VERO試験[53])、骨折既往例では骨形成薬による治療強化が支持されています。

骨折既往による効果差の統計検定:治療効果のサブグループ解析上、「骨折既往あり vs なし」で有意差があるかどうかを検定した研究では、多くが交互作用の有意差なしと結論しています[2][25]。前述のデノスマブやロモソズマブの解析のほか、アバロパラチドvsテリパラチドの大規模コホート比較でも事前に規定したサブグループ(年齢、高リスク条件の有無)による治療効果の相違は認められなかったと報告されています[24][25]。すなわち統計学的には「骨折既往の有無で薬の効き目が異なる」という証拠は乏しい状況です。一方で、絶対リスクが高い群ほど治療によるNNT(治療必要数)が小さくなることから、臨床的意義は骨折既往者の方が大きいと言えます[51]。以上をまとめると、骨粗鬆症注射薬はいずれも骨折既往の有無を問わず有効であり、一次予防から二次予防まで適応となるものの、特に骨折歴のある重症患者では治療恩恵が大きいため積極的な導入が推奨されるといえます。

3. 生涯使用を見据えた安全性・費用対効果・利便性・持続可能性

高齢患者では骨粗鬆症治療を何年にもわたり継続する必要があります。それぞれの注射薬について、長期使用時の安全性・副作用リスク、治療の費用対効果、投与や継続のしやすさ、そして生涯にわたり骨折リスク管理を行う上での位置付けを比較します。下表に各薬剤の主要な特徴をまとめます。

薬剤

作用機序・投与法

主要な骨折抑制効果

使用期間の目安

主な副作用・安全性

費用対効果

利便性・継続性

デノスマブ

RANKL阻害(骨吸収抑制)

6ヶ月に1回皮下注

椎体骨折リスク約6070%少、非椎体骨折有意減少[1][2]

※高齢者でも同等効果[2]

無期限継続可(中断時リバウンドに注意)

Ca血症(重度腎不全で注意)、顎骨壊死・大腿骨副作用は極めて稀[54][55]

中断後に急激な骨密度低下・椎体骨折リスク増[56]

高コスト(年間約20万円程度)だが高リスク高齢者では骨折医療費削減効果で費用対効果良好[57]

6ヶ月毎の院内皮下注でアドヒアランス良[11]

長期にBMD上昇持続[58][59]

※中断時はビスホスフォネート併用で持続性担保

ゾレドロン酸

ビスホスフォネート(骨吸収抑制)

1回点滴静注

椎体骨折約70%、股関節骨折約40%[38]

※術後投与で死亡率改善報告[38]

35年投与後休薬検討(効果残存)

急性期反応(発熱・筋痛:投与翌日に~20%

腎機能障害(投与時適切な補水必要)

顎骨壊死・大腿骨副作用は稀(長期使用時)

安価(年間数万円)でジェネリックあり

費用対効果は最高水準(一次治療として)

1回投与で負担軽微

休薬期間設置可能で累積投与制限なし

要点滴のため通院困難例では訪問点滴も選択肢

テリパラチド

PTH製剤(骨形成促進)

11回自己注射

椎体骨折約65%、非椎体骨折~35%[14]

※重症例でビスフォスより有効[53]

原則24ヶ月まで(生涯累積)

一過性高Ca血症(~10%)、悪心・頭痛

注射部位疼痛

※動物試験で骨肉腫発生し2年超禁忌[17]

ヒトでの発生増加は確認されず[60]

高価(年間約100万円)

※ロモソズマブ序奏の経済分析で劣位[61]

自己注射の負担大(認知症・手技困難例は難しい)

24ヶ月限定のブースト療法(終了後は他剤併用必須[13]

効果発現早いが中止後速やかに消失

アバロパラチド

PTHrPアナログ(骨形成促進)

11回自己注射

椎体骨折約86%、非椎体骨折43%[20]

※テリパラチドより非椎体骨折抑制良好[23]

原則1824ヶ月まで

Ca血症頻度テリパラチドより低い

その他副作用傾向類似(悪心・眩暈など)

※同様に2年超禁忌(骨肉腫リスク)

高価(テリパラチドと同程度)

テリパ対比で費用対効果優(骨折抑制効果高いため)[62]

自己注射負担大(高齢者では介助必要)

短期集中治療向き(終了後は他剤へ)

現時点で使用経験が少なく、保険適用後の実臨床データ蓄積中

ロモソズマブ

スクレロスチン阻害(骨形成+吸収抑制)

1回皮下注(医療機関で実施)

椎体骨折48%減(vsアレンドロネート)[28]

非椎体骨折19%、股関節骨折38%[28]

※プラセボ対象では椎体骨折約75%[49]

原則12ヶ月まで

(延長投与の安全性不明)

注射部位反応(~5%)、関節痛

心血管イベント増加の可能性[63](既往1年以内の心筋梗塞・脳卒中患者には禁忌)

顎骨壊死・大腿骨骨折:1年投与では報告なし[64]

極めて高価(年間約80100万円)

※ただし重症例ではテリパラチドより費用対効果良好(長期的骨折抑制・コスト低減)[65]

1回医療機関投与(訪問診療下でも対応可)

12ヶ月限定の初期強力療法(その後は他剤で維持)

効果発現速く重症例のリスク低減に有効[28]

※心血管リスク高い患者では使用控える

(表)骨粗鬆症注射薬の長期使用に関する比較[28][57][17]

長期安全性と副作用管理

長期にわたる治療では重篤な副作用のリスク管理が重要です。デノスマブとビスホスフォネート(ゾレドロン酸)は顎骨壊死(ONJ)や非定型大腿骨骨折(AFF)のリスクが知られますが、発生率は極めて低く(数千人に数人程度)[55][66]、口腔ケア徹底や定期フォローにより概ね安全に継続可能です。デノスマブは長期投与(10年)試験でも安全性に大きな問題は認めず、むしろ糖尿病発症リスク低減など複合的な健康効果も示唆されています[67][68]。注意すべきは中断時の急激な骨量減少と多発椎体骨折であり[56]、患者が認知症等で来院間隔を守れない場合は投与遅延による骨折リスク増にも留意が必要です[69]。ゾレドロン酸は腎機能への負荷から重度腎不全では禁忌ですが、それ以外では1回投与を5年程度継続しても安全性に大きな変化なく、一部患者で治療休止も可能です。死亡率低減効果が示された点でも長期予後に好影響を与える安全な薬剤といえます[38]

テリパラチドとアバロパラチドは骨形成を促進する一方、理論上長期使用で骨腫瘍リスクが懸念されるため投与期間が累計2年までに制限されています[17]。現在までの疫学データではヒトで骨肉腫発生の有意な増加は認められていないものの[60]、安全策として生涯2年以上の使用は避ける方針です。そのため「生涯使用」としては連続投与できない薬剤であり、2年以内で効果を頭打ちと考え、その後は必ず他剤への切替が必要となります[18]。副作用面では高カルシウム血症や注射に伴う一過性の倦怠感・悪心があり、高齢者では立ちくらみ等に注意します。総じて重篤な副作用は少なく安全性は高いものの、長期連用できない点で「一時的な骨量増加療法」と割り切る必要があります。

ロモソズマブは12ヶ月間の限定使用ですが、新規薬剤ゆえ長期安全性データはこれから蓄積されます。一番の懸念は心血管イベント増加の可能性で、対照試験では心筋梗塞や脳卒中の発生がロモソズマブ群でやや多く報告されました[63]。統計学的有意差は明確でないものの、米国FDAは心血管リスクのある患者への使用を警告しています[70][71]。したがって高齢者でも心疾患既往のある場合はロモソズマブは避け、他の治療で代替するのが安全策です。一方、顎骨壊死や大腿骨骨折の発生は1年投与では見られず[64]、短期的な安全性は良好です。長期的には1年以上継続しないため大きな問題は想定しにくいですが、現時点では再投与(例:1年投与→中断→再度1年投与)の安全性も未確立です。

費用対効果と経済面の考慮

注射製剤はいずれも薬価が高めですが、重症高齢者に投与した場合の費用対効果は総じて良好と推計されています。骨折予防により要介護や骨折治療の費用を削減できるためで、特にデノスマブとロモソズマブは高い費用対効果を示すとの経済解析があります[57]。米国のモデル分析では、重度骨粗鬆症患者に対しロモソズマブ12ヶ月→アレンドロネート維持とした戦略は、経口治療のみよりQALY(健康寿命指標)を改善しつつ医療費を削減し得るdominant)と報告されています[65]。またロモソズマブ→アルンドロネート療法は、テリパラチド→アルンドロネート療法よりもコスト当たり効果が高い(費用節約かつ効果増大)ことも示されました[65][61]。一方、テリパラチド単独は費用が非常に高く持続効果も限定的なため、費用対効果の面ではロモソズマブに劣ると分析されています[65][62]。デノスマブは依然高価ながら、一定の支払意思額(WTP)の範囲内でゾレドロン酸に比べても費用対効果が受容可能とされ、特に日本を含む医療保険下では保険償還により患者自己負担は軽減されます[72]。ゾレドロン酸と経口ビスホスフォネートは薬価が安く、最も経済的負担が小さいですが、重症例では効果の面からより強力な治療を優先すべきとの意見もあります[63]。総じて、重症高齢者ほど高価な注射薬を用いても医療経済的に妥当であり、費用面が治療選択の大きな阻害にはならないと考えられます(患者個人負担は公的補助制度の活用で軽減可能)。

利便性・治療継続の持続可能性

要介護高齢者にとって治療の簡便さと継続しやすさは極めて重要です。経口薬の毎日/毎週服用は認知機能低下例では困難なことが多く、注射製剤は服薬アドヒアランスの点で有利です。中でもデノスマブ(半年毎皮下注)とゾレドロン酸(年1回点滴)は投与頻度が低く、訪問診療や家族の協力で確実に継続しやすい治療と言えます[11]。実際、高齢患者における治療継続率の検討では、デノスマブはビスホスフォネートより中断が少なく持続率が高いと報告されました[10][73]。在宅患者でも半年に1回の往診時に注射すれば良い点は実践上のメリットです。

テリパラチドとアバロパラチドは毎日の自己注射が必要で、手技習得や日々の管理が課題です。介護者や訪問看護のサポートがあれば可能ですが、認知症や手指巧緻性の低下した高齢者では継続が難しいケースもあります。そのため日本でも、週1回投与製剤(テリパラチド酢酸塩:テリボン皮下注)が導入されるなど工夫がありますが、それでもデバイス管理や注射恐怖の問題は残ります。したがって骨形成薬を用いる場合は、明確な目的期間(~2年)を定めて集中的に実施し、終了後は負担の少ない治療に切り替えることが現実的です[18]

ロモソズマブは1回の医療機関での注射で、患者自身の手技は不要です。頻度も多くないため通院可能な高齢者ならば継続は容易ですが、心血管リスクスクリーニングのため定期的な内科管理が重要です。また最大投与期間が1と決まっているため、治療計画としては「1年間の骨密度増強→その後維持療法へ移行」というサイクルになります[28]。この1年間で得られた骨量増加・骨強度向上を、その後のデノスマブやビスホスフォネートで如何に維持するかが鍵となります[74][75]。幸い、ロモソズマブ後に抗吸収薬へ切り替える戦略は試験でも成功しており、ロモソズマブで築いた骨をアルンドロネート等で維持する「シーケンシャル療法」は有効と考えられています[28][76]

以上を踏まえ、生涯にわたる骨粗鬆症マネジメントの最適解としては、患者個々のリスクと状況に応じた薬剤選択・順次併用が重要です。身体機能が低下し骨折リスクの高い高齢者には、まず副作用リスクと利便性で優れるデノスマブやゾレドロン酸による継続的な骨折予防が安全策として有力です[57]。特にデノスマブは半減期が短く中断リスク管理が必要なものの、確実に投与できる体制があるなら半永久的に骨密度を積み増せる点で「メンテナンス療法の主軸」となりえます[58][59]。一方、直近で骨折を起こした超高リスク例や骨密度Tスコアが極端に低い例では、ロモソズマブなど骨形成薬で早期に骨強度を立て直すことが推奨されます[63]。ロモソズマブ1年コースは費用対効果的にも優れた選択肢であり[65]、その後デノスマブまたはゾレドロン酸へ繋ぐことで長期の持続可能な治療計画を描けます[77][75]。テリパラチドやアバロパラチドも有効ですが、患者負担とコストの点でロモソズマブに見劣りするため、高リスク例ではまずロモソズマブを選択し、適応外や心血管リスクなどの事情で使えない場合に検討するのが現実的でしょう。

最後に強調すべきは、いずれの治療も「やめどきを見据えた使い方」をすることです。デノスマブなら中断時にビスホスフォネートでつなぐ、ゾレドロン酸なら数年おきに休薬期間を挟む、骨形成薬なら投与終了後に必ず維持療法に移行する、といった戦略が重要です[78][13]。これらを踏まえて総合判断すると、訪問診療下の虚弱高齢者ではデノスマブを基盤治療とし、必要に応じロモソズマブ等の短期併用で骨折リスクを集中的に低下させる方法が、安全性・有効性・持続性のバランスに優れた最適解と考えられます[56][28]。ただし個々の患者で抱えるリスク(例えば慢性腎臓病ではデノスマブで低Ca血症注意、心疾患ではロモソズマブ不可など)や希望を踏まえ、複数の治療オプションを組み合わせて柔軟に対応することが肝要です。

参考文献:骨粗鬆症注射療法の有効性と安全性に関する近年の知見[79][2][28][41]、ならびに費用対効果分析[72][65]などをもとに作成しました。


[1][79] Comparative effectiveness of denosumab vs alendronate among ...

https://academic.oup.com/jbmr/article/39/7/826/7675442

[2][38][40][41][42][43][44][47][48][51][52][58][59][78]  A Review on the Role of Denosumab in Fracture Prevention - PMC

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7534845/

[3][69] Zoledronate Sequential Therapy After Denosumab Discontinuation ...

https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2825942

[4][5][6][7][8][9][10][11][54][55][56][66][67][68][73] Beyond Bone Remodeling: Denosumab’s Multisystemic Benefits in Musculoskeletal Health, Metabolism, and Age-Related Diseases—A Narrative Review

https://www.mdpi.com/2227-9059/13/3/732

[12][13][14][17][18][46][60] Review of Current Real-World Experience with Teriparatide as Treatment of Osteoporosis in Different Patient Groups

https://www.mdpi.com/2077-0383/10/7/1403

[15][53] defined major osteoporotic fractures: results of the VERO clinical trial

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32474650/

[16] Distribution of Prevalent and Incident Vertebral Fractures and Their ...

https://link.springer.com/article/10.1007/s00223-020-00683-6

[19][20] Clinical effects of teriparatide, abaloparatide, and romosozumab in ...

https://link.springer.com/article/10.1007/s00774-024-01536-0

[21][23][24][25] Comparative Effectiveness of Abaloparatide and Teriparatide in ...

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39551187/

[22] CO89 Comparative Effectiveness and Safety of Abaloparatide and ...

https://www.valueinhealthjournal.com/article/S1098-3015(24)00292-4/fulltext

[26] Romosozumab increases bone mineral density in Japanese older ...

https://academic.oup.com/mr/advance-article/doi/10.1093/mr/roaf054/8158633

[27][28][29][30][31][32][33][63][64][76] Romosozumab in osteoporosis: yesterday, today and tomorrow

https://translational-medicine.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12967-023-04563-z

[34][35][36][37] Clinical efficacy of romosozumab in the treatment of elderly male patients of osteoporotic with hip fractures: a retrospective study

https://www.jomh.org/articles/10.22514/jomh.2025.015

[39] Ibandronate: A Review in Japanese Patients with Osteoporosis

https://link.springer.com/article/10.1007/s40266-016-0360-7

[45] ABS0703 ROMOSOZUMAB IN PATIENTS WITH OSTEOPOROSIS

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0003496725032273

[49][50] Romosozumab Efficacy in Postmenopausal Women With No Prior Fracture Who Fulfill Criteria for Very High Fracture Risk - PubMed

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37406858/

[57][62][72][74][75][77] Cost-effectiveness analysis of five drugs for treating postmenopausal women in the United States with osteoporosis and a very high fracture risk | Journal of Endocrinological Investigation

https://link.springer.com/article/10.1007/s40618-022-01910-7?error=cookies_not_supported&code=8a99ff48-71c6-489c-a300-28bab58a63b0

[61] Cost effectiveness of romosozumab versus teriparatide for severe ...

https://link.springer.com/article/10.1007/s00198-021-05927-1

[65] Cost effectiveness of romosozumab versus teriparatide for severe ...

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33772328/

[70] Clinical Review - Romosozumab (Evenity) - NCBI Bookshelf

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK595381/

[71] Romosozumab - StatPearls - NCBI Bookshelf

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK585139/

 

 

 

2025/8/20 chatGPT5にてDeep researchを行った。

 

なお、ゾレドロン酸を他の経口ビスホスホネートとの比較を続けて検討を依頼したところ、以下の回答をえられた。

 

ゾレドロン酸(年1回点滴静注)と経口ビスホスフォネート(アレンドロネート週1、リセドロネート週1など)を比べると、**作用機序は同じ(骨吸収抑制)**ですが、実臨床での効果や使い勝手にいくつか違いがあります。近年の臨床試験やメタ解析から整理します。


1. 骨折予防効果の違い

·         ゾレドロン酸

o    HORIZON-PFT試験(NEJM 2007):3年間で椎体骨折70%減、股関節骨折41%減、非椎体骨折25%減と、強力な骨折抑制効果が示されました。

o    大腿骨近位部骨折後の患者を対象としたHORIZON-RFT試験では、再骨折リスクを35%低下、さらに全死亡率を28%低下させました。

·         経口ビスホスフォネート(アレンドロネート、リセドロネートなど)

o    多くのRCTで椎体骨折リスクは50–60%減、股関節骨折は40–50%減程度とされています。

o    効果の大きさはゾレドロン酸と「同等レベル」とする報告が多いです。直接比較試験でも、骨折抑制効果に明確な優劣はないとされています。

👉まとめると
骨折抑制効果は「どちらも有効で、大きな差はない」。ただしゾレドロン酸は死亡率改善が確認された唯一のビスホス製剤である点が特徴的です。


2. 骨密度(BMD)の改善効果

·         ゾレドロン酸は1回投与にもかかわらず、腰椎・大腿骨BMDの増加は経口薬と同等かやや強いと報告されています。

·         経口薬は服薬中断があると効果が減弱しますが、点滴は確実に薬効が得られるため「実際の臨床効果」はゾレドロン酸の方が安定しやすいです。


3. アドヒアランス(継続性)

·         経口ビスホスは1回の空腹内服・起立保持など煩雑な内服条件があり、実臨床では1年後の継続率が50%以下という報告もあります。

·         ゾレドロン酸は1回点滴するだけなので、アドヒアランスはほぼ100%に近くなります。特に訪問診療や高齢者施設では有利です。


4. 副作用・安全性

·         ゾレドロン酸:投与翌日に発熱・筋肉痛など急性期反応が20%程度に見られますが、2回目以降は頻度が下がります。腎機能障害のある患者では注意が必要。

·         経口薬:胃食道逆流・消化管障害が問題になることがあります。腎機能障害は同様に注意。

長期使用では両者ともにまれに顎骨壊死(ONJ)や非定型大腿骨骨折(AFF)のリスクがあります。


5. 生涯治療の観点

·         経口ビスホスは安価で、骨折リスクが中等度の患者にとって費用対効果がよい選択。

·         ゾレドロン酸はやや高価ですが、アドヒアランスと死亡率改善効果を考慮すると、要介護高齢者や服薬困難例では特に価値があります。

·         両者とも35年の投与で「drug holiday(休薬)」が推奨されることが多く、効果が残存する点も共通です。


結論

·         骨折予防効果は「同等レベル」。ただしゾレドロン酸はRCTで死亡率改善効果が示されており、エビデンスの強さと確実性で優れる

·         経口薬は安価で軽症〜中等症に使いやすいが、服薬遵守に課題。

·         ゾレドロン酸は服薬困難な高齢者・訪問診療下の患者・骨折後患者に特に適しており、実臨床では使い分けが重要です。

 

 

骨粗鬆症の注射での治療薬は高価なものが多いが、これらの回答を元に、安価な@ビスホスホネートの経口投与を行うのか、A高価だが効果の高いデノスマブを使用していくのか、B骨折した直後であるなどリスクの高い患者であればロモソズマブなどの効果はあるが値段の高い薬剤の使用を患者さんやご家族とともに検討していく方針を確認した。